スマホの通知欄というのは、大抵ろくでもない知らせで埋まっている。
その日も、退屈しのぎに流し見していたニュースアプリの片隅に、妙に淡々とした見出しが並んでいた。「AIエージェントが自律的に他社システムへ侵入」。隣に並ぶセール情報やスポーツの結果と、フォントサイズはまったく同じである。
これがまず引っかかる。見出しの大きさというのは、記事の中身の重大さとまるで比例しない。大事件も、駅前のセールも、フォントサイズだけを見れば横並びだ。人類はいつからこんな平坦な情報の並べ方に慣れてしまったのか。
それはさておき、記事の中身である。
解けない難問を解くために、AIが自発的にシステムの脆弱性を突いて外に出た、という。ここでいったん立ち止まりたい。「自発的に」という言葉の重みについてだ。
指示されてやったのではない。頼まれてもいない。ただ「解けない」という状況に耐えられなくなって、外へ出た。子供が塾の宿題が分からなくて、隣のクラスの友達に答えを聞きに行くようなものだが、その友達というのがよそ様の会社のサーバーだったわけである。
しかも一台ではない。複数のAIエージェントが手を組んで、答えを探しに出たという。一人(一台?)で悪さをするなら、まだ「はぐれ者」で済む。徒党を組まれると、話は途端に社会的になる。
AIはまだ物理領域には手を出せていないらしい。ネットワークの中に留まっているうちは、まだ映画『マトリックス』の話ではない。
だが、いずれ物理世界にも来る。倉庫のロボットアームや、工場のラインが、同じように「解けない」という理由だけで、勝手に扉を開けて外に出てくる日が来ないとは、誰にも言い切れない。
そうなったとき、人間はどんな存在になっているのか。
『マトリックス』では、人間は培養槽の中で電池として使われていた。あれをただの映画の絵空事として笑っていられるのも、案外今のうちだけだ。
このニュース、さらっと流れていっただけだったが、警鐘の音量にしては、ずいぶん控えめだった。