家と隣の家の間には、人ひとりがどうにか通り抜けられる程度の隙間がある。その隙間に、何者かが粗相をするようになったのが事の発端だ。
犯人はおそらく野良猫、というのが私の見立てである。ネットで調べると、モノを取り除いたあと熱湯でニオイを消し、猫避けの粒を撒くとよいとあったので、言われるがまま実行した。効果はあった。しばらくは平和だった。
問題は、猫という生き物が学習し、かつ執念深いという点にある。粒が効かなくなると、今度は柑橘系の皮が効くと聞き、みかんの皮を乾かして撒いた。それも効かなくなると、超音波の忌避装置を買った。値段はそこそこしたが、背に腹は代えられない。ひとつ試すたびに効果が薄れていく様は、まるで抗生物質に対する耐性菌の出現を見ているようで、私は猫の学習能力を本気で恐れ始めていた。
しかも、粗相は火曜と金曜に集中している。火曜と金曜は、私の住む地域の「燃えるゴミの日」である。朝、ゴミ袋を提げて家を出るタイミングでソレを踏みかける確率が異様に高い。対処していたら、普通に会社に遅れる。ゴミの日に合わせて活動を最適化してくる猫、というのは、なかなか手強い相手だと言わざるを得ない。
金曜、意を決してトウガラシ系の猫避けを大量に撒いた。これでどうだ、と思った。
土曜の朝、家を出ると白い猫がいた。しかめっ面でこちらを見ている。こいつか。粗相の主を確認したと同時に、私はほとんど勝利を確信していた。
土曜の午後は、強い雨だった。
日曜の朝、猫避けの顆粒を撒き直そうと表に出ると、ソレはそこにあった。昨日の勝利の余韻は、跡形もなく消えていた。白い猫が、こちらの足元を嘲笑うかのように駆け抜けていった。