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龍神様

2026

茅の輪のむこう

梅雨の最後の雫がまだ草の先に残る夕暮れだった。 龍神様の祠の石段の下に、茅の輪が立っていた。青草を編んだ輪はビピクの肩幅の三倍ほどもあり、夕霧の中にぼんやりと浮かんでいる。傍らの竹籠には白い紙の人形が几帳面に折り重なっていた——形代だ。半年に一度、この日の夕暮れに、祠へ向かう道を住人たちが歩いていく。

蛙鳴町奇譚:針の算法

春雨の上がった払暁、龍神様の祠の前に広がる石畳は、霧の奥でその目地を白く滲ませていた。 スパイスが機材を持ち出したのは、まだ夜の明けぬ前のことであった。工房から運び込んだレーザーキャリパーと自作のデータロガーを祠前の石畳に据え付け、彼は細い針を繰り返し落とし続けた。針の長さは一。目地の間隔は二。

蛙鳴町奇譚:反応拡散の刻印

蛙鳴町に梅雨の雫が滴る朝、スパイスは工房の窓を開けた途端、息を呑んだ。 ペーシャンが、記録の蔵の軒下で丸まっていた。いつものように。ただし、そのもちもちとした灰白色の肌に——茶褐色の斑点が、等間隔に並んでいた。大きな点と小さな点が交互に連なり、まるでどこかの学術誌に掲載された顕微鏡写真のように、整然と均整がとれている。

蛙鳴町奇譚:七橋の不能定理

蛙鳴町に七つの橋がある。 誰もそれを疑わない。数えても六つしか見つからなくとも、七つある、と古老たちは言い、住人たちはそれを信じ、そして数えることをやめる。数えることをやめた者だけが、この町の時間に馴染むことができる——それが蛙鳴町の流儀というものである。

蛙鳴町(あめいちょう)奇譚:影の告白

 五月の四日、空の様子がおかしかった。 朝から霧が降りてきた。降りてくる、という表現は正確ではないかもしれない——池から立ち昇るのでなく、頭上より湿った影が、まるでデータパケットの洪水がネットワークを静かに溢れさせるように、音も予兆もなく滑り落ちてきた。逆さ霧だ、と大人たちは言った。

地球のてのひら

春霞の溶けきった昼下がり、龍神様の池が青空を丸ごと映していた。 「見ろ——今日のコポーは、大地と対話する男になる」 コポーは腕まくりをして池のほとりにしゃがみ込み、スパイスから「研究目的で」借りてきた細い針の温度計を黒土に差し込んだ。小さな画面が37.2と点滅する。

四月の底力

南の空気が、朝から少しだけ違う匂いをしていた。 池の水面がざわめいている。風はないのに、龍神様の祠のしめ縄が揺れていた。コポーは縁石に腰かけて、その揺れを眺めながら腕を組んだ。カッコいいポーズをとるつもりだったが、なんとなくそういう気分になれなかった。