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記録の蔵

2026

蛙鳴町奇譚:振り子が刻む町

記録の蔵の天井から、それは吊るされていた。 いつ、誰が設置したのか——蔵番の古い台帳にも、スパイスが精緻に整えたデジタルアーカイブにも、その一行は存在しない。ただ蛙鳴町の住人が記憶している限り、あの細い鋼線と鉄の球は、ずっとそこにあった。纏う埃はほんの薄く、薄い光の中で、ゆっくりと、ほとんど気づかぬほどに、一日の間に向きを変えながら揺れ続けている。蔵を訪れる者は大抵それに気づかず、気づいた者も特に問わなかった。