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奇っ怐

2026

蛙鳴町奇譚:雨の代筆

五月の終わりの雨は、蛙鳴町の石畳を一枚の原稿用紙に変える。 都会から来た女が三脚を立てたのは、ちょうどその雨が降り始めた頃だった。最新型の8Kカメラと外付けSSDを収めた防水ケースを肩に提げ、「異界の実録映像」というタグで動画配信サイトに投稿するための素材を求めて、SNSに流れ込んだこの町の噂を辿ってきたのだという。三脚の一本足が石畳の継ぎ目に入り込み、なかなか安定しなかった。何度直しても傾く。それがこの町から最初に受け取った返事であることを、この時の女はまだ知らなかった。