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初夏

2026

ビワひとつぶんの言葉

ビワの実が熟れはじめる、初夏の午後。コポーは石橋のたもとで、白紙のノートの前に座り込んでいた。 「……書けない」 三度目の書き出しを消した跡が、紙をうっすら毛羽立たせている。今日が恋文の日だと気づいたのは、ミニコーが新聞を折りながら「五の二の三、こいぶみ、だって。兄ちゃん、読みやすいね」と呟いたからだった。

ちょっとずつ満ちる

梅雨の手前の風が、龍神様の池の面をゆっくりと横切っていった。 コポーは石橋の欄干に肘をのせたまま、川沿いのしだれ桜を見ていた。花はとっくに散り、今は青い葉が枝をことごとく埋めて、川面に翳を落としている。一週間前より確かに濃い。二週間前と比べれば、もっと。けれどその変化の瞬間を、コポーは一度も見ていなかった。