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ミニコー

2026

256番目の灯り

夜更けの工房には、スパイスの古い端末だけが青白く光っていた。画面の隅で、数字がひとつ増えるたびに小さく明滅する。 「256……あと少しだ」 スパイスは呟きながら、記録の蔵から借りてきた古いプログラムを打ち込み続けていた。町の水位や龍神様の湖の水温を、毎日淡々と記録し続ける仕掛けだ。

赤金色の八ビット

夕暮れの生暖かい風が、スパイスの工房の開け放たれた窓から流れ込み、はんだ付けの煙を緩やかに揺らしている。 作業台の上には、都会の廃材置き場から拾ってきたという、くすんだ赤と金のプラスチックで作られた手のひら大の小箱が置かれていた。細いケーブルで繋がれた二つの平たいコントローラーが、まるで小動物の耳のように左右に伸びている。

蛙鳴町奇譚:九次元の折り目

梅雨が明けきらぬ朝、蛙鳴町の古い踏切には、どこか薄荷めいた冷気が漂っていた。 ミニコーが都会から運ばれた新聞を膝の上でひらき、兄のいない縁側でひとり呟く。「……都の物理学者が言うには、この世は本当は九つの次元でできていて、僕らはそのうち三つしか畳めずにいるらしい」。折り畳まれて見えなくなった残り六つは、指の先ほどの隙間に潜んでいるのだという。

蛙鳴町奇譚:虚数影の幻燈

ひえびとした青い七月の、しめり気ある銀河の底の夜でした。蛙鳴町の古い踏切のそばには、背の高いシラカンバの木々が立ち並び、その葉は真空からこぼれた青い燐光をあびて、サラサラと冷たい金属のように擦れ合っていました。遠くの龍神様の湖から吹いてくる風には、かすかな薄荷の匂いと、大気電気の放電によるオゾンの香りが混ざり合っています。

まだ半分ある

七月の最初の朝は、霧雨ではじまった。 コポーは、スパイスの工房から無断で借りてきた古い短波ラジオを、龍神様の池のほとりにある平たい石の上に据えた。アンテナを精一杯伸ばしたものの、届いてくるのは遠い空の雑音だけだった。ラジオの外側には、古いテープで「スパイス物品・無断持出禁止・三日腹ぺこの刑」と書いてある。コポーは気にせず、ダイヤルを右に一ミリ、また一ミリと回した。

必勝の夜

蛙鳴町の梅雨が、ようやく明けかかった夜だった。 スパイスが工房の前に張り出した布スクリーンには、地球の反対側の都市——ヒューストン——の夜景が、青白い映像で映し出されていた。その地名をコポーは鉢巻きに書こうとして、字が多すぎて諦め、代わりに「必勝」と太く書いた。インクがにじんだ。