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タッチー

2026

十箇条の清書

まだ人気のない駅のホームの端、時刻表の柱の下で、マスクメンは藁半紙を石畳に広げていた。手には短い鉛筆。 「せ、正義のヒーロー心得、その一……」 覆面の目の穴から覗く視線が、紙の上をぎこちなく這う。書いては止まり、書いては指先で押さえて直す。「正」の字の、最初の一本の横棒が、どうしても右へ反り返ってしまう。何度なぞっても匕首みたいに曲がる。徹夜で書き上げた十箇条を清書しようというのに、一文字目から情けなかった。

凸凹の二人三脚

秋の気配はまだ遠いのに、蛙鳴町の広場には妙な緊張感が漂っていた。 「今日は特別な記事を持ってきたぞ!」 ハッシーが翼をばたつかせながら、都会から運んできた新聞を石畳に広げる。義足で高く跳ぶ選手や、車椅子を巧みに操る選手たちの写真が、朝の光を受けて眩しく光っていた。

八十八の手間

夏の終わりの陽射しが、駅前広場の隅に積まれた俵をじりじりと炙っていた。 コポーは新米の俵に鼻を寄せ、「早く食べたいなあ」と腹の虫を鳴らしていた。しかし俵の傍らには、まだ乾ききらぬ稲穂の束を背負ったペーシャンが、モチモチの背をどっしりと下ろしている。

蛙鳴町奇譚:龍灯虫

梅雨明けの蒸し暑い宵、龍神様の湖畔に、蛍とも違う淡い青緑の光が無数に瞬いていた。羽音はなく、風に流されることもない。住人たちはそれを「龍灯虫(りゅうとうむし)」と呼び、夏の初めにだけ現れる不思議な光として、特に驚きもせず眺めていた。

眠れなかった夜のゴール

深夜零時を越えてもなお、広場の隅で古いテレビがぼんやりと青い光を放っていた。 スパイスが引いた延長コードが石畳を這い、緑の芝生を映す画面の前に三つの影が並んでいる。六月の夜気は湿り気を帯びて、龍神様の祠の方からカエルたちの鳴き声がリズムよく届いてくる。

雨の日の一蹴

六月の雨が、広場の土をしとしとと黒く濡らしていた。 「ふっふっふ、今こそ俺の本領発揮だぜ」 コポーは、ミニコーが新聞から切り取ってきた白黒の写真をポケットにしまい、泥だらけの丸いボールを蹴り上げた。遠い大陸の緑の芝生で、蛙色のユニフォームが駆け回っているというそのニュースが、どこかコポーの血を沸かせていた。

蛙鳴町奇譚:振り子が刻む町

記録の蔵の天井から、それは吊るされていた。 いつ、誰が設置したのか——蔵番の古い台帳にも、スパイスが精緻に整えたデジタルアーカイブにも、その一行は存在しない。ただ蛙鳴町の住人が記憶している限り、あの細い鋼線と鉄の球は、ずっとそこにあった。纏う埃はほんの薄く、薄い光の中で、ゆっくりと、ほとんど気づかぬほどに、一日の間に向きを変えながら揺れ続けている。蔵を訪れる者は大抵それに気づかず、気づいた者も特に問わなかった。

甘茶の雨と、黄金色の守護者

蛙鳴町の広場は、朝から甘い香りに包まれていました。 4月8日。今日は「花まつり」。広場の中央には色とりどりの花で飾られた小さな堂「花御堂(はなみどう)」が置かれ、中には天と地を指差す誕生仏が鎮座しています。

崩れゆく星と、丸い幸せ

蛙鳴町の西の空が、燃えるようなオレンジ色から深い群青へと溶け始めていました。 4月4日。今夜、太陽に最も近づき、その熱で自らを壊そうとしている「マップス彗星」が、地平線ぎりぎりに見えるはずだと、町の人々は色めき立っていました。