春の陽気が心地よい、新しい年度の始まり。カエルたちの町にも、フレッシュな顔ぶれがやってきた。ぴかぴかのランドセルを背負った新入生カエルや、真新しいつなぎに身を包んだ新入社員カエルたちが、町の中心を誇らしげに歩いている。
「キャー!可愛い!」
「頑張ってね!」
そんな黄色い声援を一身に浴びている彼らを、コポーは少し離れた場所から、複雑な表情で見つめていた。
「チッ、いいなあ、新入生とか新入社員って。みんなチヤホヤしてくれて…」
コポーだって、女の子にキャーキャー言われたい。
内気な性格ゆえ、なかなか自分から声をかけられないコポーにとって、今の状況は少しばかり羨ましかった。
(そうだ!)
コポーは、突拍子もないことを思いついた。
「オレも新入社員になれば、キャーキャー言われるんじゃないか!?」
次の日、コポーはどこからか借りてきた大きすぎる作業着をヨロヨロと着て、胸には手書きの「新入社員」という名札をつけた。そして、得意げな顔で町の広場に現れた。
「おはようございまーす!今日から新入社員として頑張ります!」
コポーのあまりにも奇妙な姿に、広場にいたカエルたちはポカンとした。
「コポー、お前、確かずっと前からこの町に住んでるよな?」
「それに、何の会社に入ったんだ?」
タッチーは長い足を組みながら、呆れたように言った。
「コポー、お前ってやつは…。第一、その作業着、ブカブカじゃないか。まるで借りてきたみたいだぞ。」
ミニコーも、短い手足をバタバタさせながら、
「コポー兄ちゃん、新入社員って、もっとこう、キリッとしてるんじゃないの?」
と首を傾げた。
ソンチョーはシルクハットのつばをちょいと上げ、フェッフェッと笑いながら言った。
「コポーよ、お前のその気持ちは分からんでもないが…新入社員というのは、新しく会社に入った者のことじゃ。お前は違うじゃろうて。」
しかし、コポーは聞く耳を持たない。
「いやいや、オレは今日から心機一転、新しい気持ちで頑張るんだ!だから新入社員だ!」
そう言って、コポーは街の掲示板に貼ってあった求人広告を指さした。
「ほら!ここで働くんだ!」
しかし、その求人広告は「池の畔の相撲大会、力士募集!」というものだった。
モッチーは細い目をさらに細め、
「コポー…それは新入社員じゃなくて、新しい力士募集の張り紙だぞ…」
と冷静に指摘した。
それでもコポーは納得しない。
「いいや!力士だって、新しい仕事だ!だからオレは新入社員だ!」
コポーは、ブカブカの作業着の袖をまくり上げ、意味不明な気合を入れ始めた。
その様子に、周りのカエルたちはますます困惑顔だ。
ケロミは歌いながら、
「コポーさん、面白いことしてるね~」
と笑い、オヒサマは
「まったく、何を考えてるのかしら?」
と呆れたようにため息をついた。ビピクは冷静に、
「コポー、まずは自分の状況をちゃんと理解した方がいいと思うわ」
とアドバイスしたが、コポーの耳には届かない。
結局、コポーの「新入社員ごっこ」は、周りのカエルたちから白い目で見られるだけで終わった。力士募集に応募しようとしたものの、あまりにも体格が違いすぎて、すぐに追い返されてしまったのは言うまでもない。
しょんぼりとしたコポーは、いつもの池のほとりで一人、夕焼け空を見上げていた。
「やっぱり、キャーキャー言われるのは難しいなあ…」
その時、弟のミニコーが、短い足でちょこちょこと近づいてきた。
「兄ちゃん、元気ないね。でも、兄ちゃんは兄ちゃんだよ。無理しなくても、面白いところがいっぱいあるんだから。」
ミニコーの優しい言葉に、コポーは少しだけ元気を取り戻した。無理に新しい自分になろうとするよりも、ありのままの自分を大切にすることの方が、きっと大切なんだ。その日の夜、コポーはいつものように内気ながらも、ふとした瞬間に見せるおかしな行動で、周りのカエルたちをクスッと笑わせた。キャーキャーという黄色い声援はなくても、みんなの笑顔が、コポーにとっては何よりも嬉しいものだったのかもしれない。
おしまい。
