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蛙鳴町(あめいちょう)奇譚

2026

声が出ない歌姫

三月の風が広場を横切るたびに、ケロミはくしゃみをした。 「……っくし! っく……」 「大丈夫か?」 コポーが恐る恐る近づくと、ケロミが涙目で首を振った。声が出ないわけではないが、いつもの透き通った音とは違う。かすれた空気が、言葉の端にまとわりついていた。

満塁の朝

三月の広場に、遠い都会からニュースが風に乗ってやってきた。 「満塁ホームランだって! 十三対ゼロで勝ったんだって!」 コポーが声を張り上げると、タッチーが長い足を組み替えて振り向いた。

仮面の下の桜色

三月の風が駅前広場を吹き抜け、まだ開かない桜のつぼみが枝の先でぎゅっと身を縮めていた。 「……届かない」 ミニコーが踏み台代わりにした石の上から、掲示板の高い位置に向かって精一杯手を伸ばしていた。「ねえさんへの誕生日カード」と書かれた紙。住所の欄には「世界中のどこか」と書いてある。

海の底の太鼓

三月の朝霧がまだ龍神様の湖を覆っていた頃、スパイスは湖面を覗き込んで眉をひそめた。 「……揺れている」 彼の水波センサーの針が、かすかに、しかし規則正しく振れていた。遠い海の底から伝わってくる微振動——まるで誰かが巨大な太鼓を打ち続けているような波紋が、霧の奥から静かに広がっていた。

翼骨の予報

二月の終わりの空は、日が落ちた後もしばらく薄桃色が残る。 龍神様の池の端で、コポーは息を白くしながら西の空を見上げていた。夕暮れの残光の中に、光の点が一つ、また一つと灯り始めた。数えようとして指を立てるが、二月の空気が冷たくて、すぐに引っ込めてしまう。

登場人物と世界観

蛙鳴町について # 町外れの古い踏切と、しだれ桜が川面に枝を伸ばす風景。 蛙鳴町(あめいちょう)は、どこにでもありそうで、どこにもない小さな町です。 日々の出来事が、ここでは少しだけ奇妙な色に染まります。