蛙鳴町の駅前広場。コポーは、エンジニアのスパイスが都会から取り寄せたという、最新の「感情翻訳バッジ」を胸につけて震えていました。
「スパイス、これをつければ……僕が女の子の前でモジモジしていても、僕の『真のカッコよさ』が自動的に翻訳されて伝わるんだな?」 「……理論上はな。対象の脳波と心拍数を解析し、最も適切な言語に変換してスピーカーから出力する。君の空回りするフラストレーションも、これで解消されるはずだ」
蛙鳴町の朝霧は、今日に限って少しだけ甘い匂いがしました。 4月1日。広場の中央では、マスクメンがかつてないほど直立不動で立ち尽くしていました。その隣には、つなぎの襟を正したエンジニアのスパイスが、ホログラムのリストを手にしています。
蛙鳴町の駅前広場には、今夜、不思議な「境界線」が引かれていました。 3月31日。年度の終わりを告げる風が吹く中、エンジニアのスパイスは、古びた蔵の入り口に、特製のホログラム・プロジェクターを設置していました。
春の陽光が、蛙鳴町の駅前広場に柔らかな影を落としていました。 3月30日。広場の隅では、コポーが自作の「カエル天下取り地図」を広げ、真剣な眼差しで独り言を呟いていました。
夜明け前の蛙鳴町は、深い霧に包まれていました。 3月29日。カレンダーに「作業服の日」と記された今日、エンジニアのスパイスは、いつものつなぎ(作業服)の袖を捲り上げ、龍神様の湖へと続く水路の点検に勤しんでいました。
蛙鳴町の草原は、春の陽光を受けてキラキラと輝いていました。 今日は3月28日。ミニコーは、四つ葉ならぬ「黄金の三つ葉」を探して、地面をじっと見つめていました。
春の嵐が過ぎ去り、蛙鳴町の空気は洗われたように澄み渡っていました。 今日は3月27日。カレンダーには「さくらの日」と記され、町のあちこちでピンク色の蕾が誇らしげに膨らんでいます。
町外れの古い踏切を越えた先、しだれ桜が川面に枝を伸ばす。 今日の蛙鳴町には、都会から「AR(拡張現実)の実験」という名の新しい風が届いていました。
スパイスの工房に、手作りの電球が一個下がっていた。
「今日、点けてみる」
コポーとミニコーが見守る中、スパイスがスイッチを入れた。
フィラメントがゆっくり赤くなって、橙色の光が工房を満たした。
スパイスが聴診器型のガジェットを持って、広場を歩いていた。
「何してるの?」モッチーが声をかけた。
「町の『見えない小さな声』を聴いている」
モッチーが首をかしげた。
ハッシーの天気予報は、当たったためしがなかった。
「明日は大雨だ」と言った翌日は快晴。「晴れるぞ」と告げた日の午後には必ず雷が落ちた。
しかし今日だけは違った。
世界水の日に、スパイスが龍神様の湖の水質データを読み上げた。
「透明度、pH、溶存酸素量——すべて正常範囲内。この町の水は、今も清潔だ」
ソンチョーが湖面を見ながら言った。
春彼岸のお墓参りの帰り道、コポーとミニコーが団子を食べながら歩いていた。
「先祖ってさ、カッコよかったのかな」
「どうだろ」ミニコーが串を回しながら言った。「兄ちゃんみたいに、不器用だったんじゃないかな」
春分の日は、昼と夜の長さがほとんど同じになる。
ビピクがしだれ桜の下でヨガのポーズを整えながら、ソンチョーに聞いた。
「完璧でも不完全でもない日って、あると思う?」
誰もいないと思っていた。
ケロミが広場のしだれ桜の下で、発声練習の次に好きな歌を歌っていた。本番のためではなく、今日この瞬間のためだけに歌う時間。少し声が震えていたのは、花粉のせいではなかった。
日本がWBCで負けた夜、コポーが広場に座り込んでいた。
「負けた」
「負けたな」
タッチーが隣に来て、空を見上げた。星が出ていた。
「悔しい?」
「悔しい。でも……」
スパイスが端末を見つめたまま動かなかった。
「……生体分子が確認された」
遠い宇宙の小惑星から持ち帰ったサンプルの中に、生命を作る分子が含まれていた。都会の研究者たちが、震える声で発表していた。
三月十六日の朝、モッチーは夜明けから台所で団子をこねていた。
ひとつ、ふたつ……十六個。数えながら、丁寧に、均等な大きさに丸めた。
「龍神様への春の供え物だ」
靴の日に、タッチーは新しい靴を買いに行って帰ってきた。
「どうだ。完璧なフォルムだろう」
コポーが覗き込んだ。靴は確かに高級そうだったが、タッチーの長すぎる足の先が、靴の一センチほど飛び出していた。
三月十四日。コポーは朝から計算していた。
「バレンタインにもらった分の、ちょうどいいお返しって何だ……」
スパイスが「3.14……円周率だ。割り切れない数字だ」と無表情に言った。