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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

ふぞろいのグミ

朝の工房の前に、スパイスが小さな鉄の箱を据えていた。側面のハンドルを回すと、下の型から透きとおったグミがぽとり、ぽとりと落ちてくる。どれも同じ大きさ、同じ角度、同じ琥珀色。石畳に並べると、宝石を敷きつめたように光った。

「見ろ。粒のばらつきはコンマ以下だ。噛んだときの弾力まで、ぜんぶ設計してある」

ビピクが一粒つまみ、朝の日にかざした。濁りのない光がまっすぐ抜けていく。整いすぎたその粒は、彼女の指の上で、なぜだか居心地悪そうに見えた。

そこへモッチーが、大きな葉を皿がわりにしてやってきた。庭の果実を煮て、寒天で固めたという手製の粒が、皿の上でぶよぶよと傾いでいる。ふくらみすぎたのや、しっぽの伸びたのまで交じっていた。

「不格好だろう。でも、ひとつずつ味がちがうんだ」

ビピクは手製のほうをひとつ、口に入れた。歯を当てると頼りなくひしゃげて、奥から野いちごの酸っぱさがにじみ出す。均一な粒にはない、ふぞろいな歯ごたえだった。

広場の隅では、ペーシャンが日なたで丸くなって眠っていた。ビピクがそのわき腹を、そっと指で押す。ぷに、と沈んで、ゆっくりまた戻る。眠ったままのペーシャンが「……春の、夢……」とむにゃむにゃ言った。

「この子のほうが、スパイスの箱よりよっぽど正確に、もちもちしてる」

スパイスはハンドルから手を離し、少しだけ眉を寄せた。それから、モッチーの傾いた粒をひとつ、黙って口へ運んだ。かんだ拍子に、片方の頬だけがふくらんだ。

池の水面が、昼前の光をふぞろいに割って揺れている。ビピクが笑うと、いつもより少しだけ、口の端が曲がった。その曲がりかたを、彼女は直そうとしなかった。

余白: 夕方、工房の型には、わざと角をゆがめた新しい模様が、ひとつだけ彫り足されていた。

【本日の雫】

  • グミの日: 9月3日は「グミの日」。「グ(9)ミ(3)」の語呂合わせにちなみ、UHA味覚糖が制定し、日本記念日協会に登録されている。かむことで歯や顎の健康につながるとして、グミを食べる習慣を広める意味がある。
  • ベッドの日(Good Sleep Day): 9月3日は「ベッドの日」。「ぐっ(9)すり(3)」の語呂合わせから全日本ベッド工業会が制定した。質のよい睡眠と寝具の大切さを見直す日とされている。
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