メインコンテンツへスキップ
  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

二度目を待つ券

駅前の掲示板に、都会の売り場が配ったという古い当選番号表が一枚、画鋲で留められていた。朝の風で端がめくれ、細かい数字の列がさらさらと震えている。掲示板の下では、乾いた銀杏の葉が一枚、石畳の上を音もなく滑っていった。

その番号表の前にコポーが陣取り、握りしめた一枚の券と表を、何度も何度も見比べていた。

「この一枚が当たったら……池のほとりに大きな噴水のある家を建てて、町じゅうの女の子を招くんだ。それでみんな、僕のことを……」

読み上げた末尾の数字は、表のどこにも並んでいなかった。一等はおろか、末等のかすりもない。コポーは券をくしゃりと丸め、石畳へぽいと落とした。

「……ただの紙くずだ」

その紙くずを、通りかかったオヒサマがつまみ上げた。皺をていねいに伸ばし、自分の袂へするりと滑り込ませる。

「拾っただけよ。……こういうの、あとで要るかもしれないでしょ」

「要るもんか。外れたんだよ、それ」

しだれ桜の下で、ソンチョーが古い手帳をめくりながら「フェっフェっ」と笑った。

「コポーや。都会にはな、外れた券だけをもう一度箱に集めて、引き直す日があるのじゃ。敗者復活、というやつでな」

「……外れたのに、もう一回?」

「そうじや。一度きりで捨てられるものなど、案外少ない。ワシのこの剣も、戦地で錆びて捨てられたが、今はこうして手帳の重しになっておる」

ソンチョーは短剣の柄で、こつん、と手帳を鳴らした。

コポーは、丸めた癖のついた券がオヒサマの袂で静かに膨らんでいるのを、横目で見ていた。池の水面が、夕方の光をひとつぶずつ拾って光っていた。

余白: 数日後、オヒサマは「まだ役に立ってないけどね」とつぶやきながら、その券を袂のいちばん奥へそっと移し替えていた。

【本日の雫】

  • 宝くじの日: 9月2日は「宝くじの日」。「く(9)じ(2)」の語呂合わせにちなみ、1967年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)などによって制定された。時効で受け取られないままの当せん金への注意を促す意味合いもある。
  • ハズレ券のお楽しみ抽せん: 宝くじの日には、その年に発売された「はずれ券」の番号を対象にした「お楽しみ抽せん」が行われ、当選すると記念品などが当たる。外れた券に二度目の機会を与える催しとして知られる。
PR