秋の気配はまだ遠いのに、蛙鳴町の広場には妙な緊張感が漂っていた。
「今日は特別な記事を持ってきたぞ!」
ハッシーが翼をばたつかせながら、都会から運んできた新聞を石畳に広げる。義足で高く跳ぶ選手や、車椅子を巧みに操る選手たちの写真が、朝の光を受けて眩しく光っていた。
「へえ……体の形が違っても、跳び方はそれぞれなんだね」
覗き込んだタッチーが、自分の不釣り合いに長い脚を見下ろす。頭に手が届かない代わり、この脚だけは誰にも負けない自信があった。だが今日ばかりは、その長さが仇となる。サイズ違いの靴と自作の中敷きでは、踏切のタイミングがどうしてもずれてしまうのだ。
「タッチー、俺と組もう」
声をかけたのは、覆面越しでもわかるほど頬を赤らめたマスクメンだった。
「二人三脚なら、俺の短い歩幅と、お前の長い脚が、ちょうどよく釣り合うかもしれない」
シャイな彼が自分から声をかけるのは珍しく、タッチーは一瞬言葉を失った。
しだれ桜の下で眺めていたソンチョーが、フェっフェっと笑う。
「体の凸凹を恥じるでない。凸凹同士が組めば、丸くなる」
紐で足首を結び、ぎこちなく息を合わせる二人。最初の一歩でもつれ、二歩目でようやく揃い、三歩目にはまるで一つの生き物のように跳ねていた。ゴールの向こうで、ハッシーが翼を大きく広げて拍手の代わりとする。
タッチーは息を切らしながら、隣で覆面の中の目を細めるマスクメンを見た。届かない頭に手をやる代わりに、長い脚で軽く地面を蹴る。誇らしさが、靴の中敷きよりも確かに、足元を支えていた。
余白: その夜、マスクメンは覆面の紐をこっそり結び直しながら、二人三脚の呼吸をひとりで復習していた。
【本日の雫】
- パラスポーツの日:2021年8月24日、東京2020パラリンピック競技大会の開会式が行われたことにちなんで制定された記念日。