夏の陽射しが照りつける昼下がり、コポーは池のほとりでせっせと笹の葉を編んでいた。
「これで……僕だけの船が完成するぞ!」
出来上がったのは、掌に収まるほどの小さな笹舟だった。帆の代わりに、ケロミの衣装の端切れをそっと立ててある。
「兄ちゃん、また新聞読まずに何か作ってる……」 呆れ気味に覗き込んだミニコーが、抱えていた新聞をぱさりと広げた。「見て、これ。たった一人で、小さなヨットで太平洋を渡った人がいるんだって。エンジンも仲間も、地図の続きさえなかったのに」
コポーは笹舟を握りしめたまま、じっと見出しの文字を見つめた。「一人で……あの大きな海を……」
しだれ桜の下で古い航海日誌をめくっていたソンチョーが、フェっフェっと笑いながら顔を上げる。
「儂も若い頃、荒れる波に一人で漕ぎ出したことがある。船の大きさなんぞ、覚悟の大きさには関係ない」
「じゃあ、この笹舟でも……いつかは龍神様の湖の向こうまで、行けるかな」
「行けるとも。ただし、今日のところは岸から見える範囲でな」
ソンチョーの言葉に、コポーは少し悔しそうに、それでも笑って笹舟をそっと池に浮かべた。小さな帆が夏の風を受け、水面をゆっくりと滑り出す。蝉時雨の合間に、水の跳ねる音がひとつ混じった。ミニコーとソンチョーは並んで石に腰かけ、その小さな船出をいつまでも見守っていた。
余白: その夜、コポーは笹舟の帆に、地図で見たこともない都市の名前を鉛筆でそっと書き加えていた。
【本日の雫】
- 太平洋横断記念日: 1962年8月12日、堀江謙一氏が小型ヨット「マーメイド号」で太平洋を単独無寄港横断し、サンフランシスコに到着したことに由来する記念日。