夕方の川風が、しだれ桜の葉を揺らしていた。橋のたもとで長い脚を持て余すように投げ出していたタッチーの前に、スパイスが黙って一枚の雑誌の切り抜きを差し出す。
「……なんだ、これは」 「都会の資料棚を整理してたら出てきた。今日は世界の虎を守ろうって日らしい」
金と黒の縞模様をまとった虎が、紙面の中でこちらを見据えていた。タッチーは鼻を鳴らしながらも、視線はしばらくそこから離れない。
「虎なんて、喧嘩っ早いだけの生き物だろう。僕の美学とは無縁だ」
そう言いながらも、指先はいつの間にか川辺の小石で地面に縞の線を描いていた。届かない後頭部を掻くふりをして、慌てて消そうとする。
「隠さなくていい。……お前、その柄、気に入ったんだろう」
スパイスの静かな一言に、タッチーは黙り込んだ。虎は喧嘩のために生きているわけではなく、ただ数を減らしながら、それでも山を歩き続けているだけなのだと、記事の隅の小さな文字が伝えていた。争わずとも、守られなければ消えていくものがある。
その夜、タッチーは自室で古い靴の中敷きを取り出し、へたった革の上に炭で縞模様をそっと描き足した。誰に見せるためでもない、自分だけの強がりだった。
余白: 翌朝、タッチーの靴からわずかにはみ出した爪先に、誰も気づかないほど小さな縞模様が覗いていた。
【本日の雫】
- 世界トラの日:7月29日。虎をはじめとする野生動物とその生息地の保護を呼びかける国際デー。2010年、虎の生息数の急減を受けて制定された。