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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

声だけの綱

蝉時雨がわんわんと降り注ぐ龍神様の池のほとりの草原に、コポーは仁王立ちしていた。目には気合の入った赤い布――目隠しだ。

「よし、絶対にキメてやる。かっこよく一発で……!」

息巻いた直後、モッチーの太い両手にくるりと三回転させられ、方向感覚はあっさり消え去った。土の匂いと草いきれだけが頼りの闇の中、棒を構えたコポーの膝が笑う。

「ちょっと、そっちは池だし! まっすぐ三歩、そこで止まって!」

オヒサマの声が飛んでくる。ぶっきらぼうなのに、迷いなく足が動く。

「べ、別にコポーの心配してるんじゃないから。溺れられて片付けが増えるのが嫌なだけ」

憎まれ口の奥に潜む何かに、コポーは目隠しの中でにやりと笑い、棒を振り下ろした。

ぱかん、と小気味よい音。歓声より先に、甘い匂いが鼻を突く。

目隠しを外すと、真っ二つになった果実の断面が、夏の光を受けて濡れたように赤く輝いていた。

「かっこよく決まったな」とモッチーが笑いながら、残りの塊をひとつずつ丁寧に切り分けていく。

「声だけを頼りに歩くのって、存外怖いもんだ」

モッチーのつぶやきに、オヒサマは頬を赤らめて顔をそむけた。

「別に、難しい話なんてしてないし。ちゃんと聞いてただけでしょ」

種を吹き飛ばして遊ぶコポーの隣で、オヒサマは自分の声がちゃんと届いていたことに、こっそり安堵していた。

棒の先を導いていたのは、目印でも太い綱でもなく、ただの声だった。それでも、確かに繋がっていた。

余白: その夜、コポーは自分の枕元に、こっそり洗って乾かした種を三粒だけ並べていた。

【本日の雫】

  • スイカの日:7月27日。スイカの縦縞模様を綱に見立てた「つ(2)な(7)=27日」の語呂合わせにちなむ記念日。