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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

背中でできた椅子

カエル山の中腹は、朝からセミの声で満ちていた。かつて何かを「守る」場所だったという古い石垣の跡に、コポーが泥で塗り固めた小さな屋根――迷った人のための休憩所――が、今日は心なしか誇らしげに見えた。

「よし、そろそろ看板をつけよう」

コポーは古い板切れを抱え、木の下で腕まくりをしていた。ミニコーが持ってきた都会の新聞には、山や森を国が守る仕組みができてから何十年、という小さな記事が載っていたのだ。

「せっかくだから、名前をつけたいんだ。ただの休憩所じゃなくて……みんなの、場所」

そこへ、のっそりと地響きのような足音がやってきた。ペーシャンだ。今年もようやく地中から目覚め、久しぶりの陽光にモチモチした背中を光らせていた。

「座ってて、いい」

短い言葉とともに、ペーシャンは石垣の脇にどっしりと腰を下ろした。柔らかく大きなその背は、まるで最初から誂えられていたかのように、ちょうどいい高さの椅子になった。

「これは……いいね! 座り心地も、抜群だ」

コポーが感心していると、茂みの向こうから赤い覆面がひょいと顔を覗かせた。警備隊の見回り中だったマスクメンだ。

「あ、その……山道が、崩れてないか確認をだな……」

もごもごと言い訳しながらも、マスクメンは手にした金槌で、コポーの看板を迷いのない一打で打ちつけてくれた。不器用な文字で書かれた「迷った人の休憩所」の下に、いつの間にか小さく「ようこそ」の一言が添えられていた。

「マスクメン、これ……」 「べ、別に。誰かの休む場所を守るのも、仕事のうちだから」

木漏れ日が三人の影を揺らし、土と青葉の匂いを含んだ風が、看板の乾いたペンキを撫でていった。コポーは看板を見上げ、誰も見ていない場所で誰かのために積み重ねてきたものが、少しずつ形になっていく心地よさを噛みしめていた。

余白: 看板の裏側にマスクメンが小さく彫り込んだ「十一条:一歩」の文字は、まだ誰にも見つかっていない。

【本日の雫】

  • 自然公園の日: 1957年7月21日、自然公園法が公布されたことを記念する日。国立公園をはじめとする豊かな自然の恩恵と保護について考える一日とされる。