駅のホームのベンチには、陽炎の向こう側で、白く冷たい塊が静かに佇んでいた。
キリガミネンがそこに座っているだけで、通り抜ける風がほんのりと雪解けの匂いを帯びる。
「もう、どうして今日のお日様はこんなに張り切っているのかしら」
オヒサマは黄色い団扇をせわしなく動かしながら、キリガミネンのひんやりとした背中にそっと寄りかかっていた。額に張り付いた髪を払う彼女の横顔は、暑さのせいか、少しだけ不機嫌そうに見える。
そこに、砂利を踏みしめる頼もしい足音が近づいてきた。
覆面の紐をきゅっと結び直したマスクメンが、冷たい麦茶の入った水筒を抱えて巡回していた。視界が狭まるカラフルなマスクの中はすでにサウナのようだったが、彼は背筋を伸ばし、一歩一歩を確かに進めている。
「オヒサマ、キリガミネン。熱中症には十分気をつけてくれ。はい、これ」
マスクメンが差し出したのは、冷えた麦茶のコップと、道端で大輪を咲かせていた一本の向日葵だった。
「な、なによこれ。太陽の方ばっかり向く花だからって、ご機嫌取りのつもり?」
オヒサマは団扇の手を止め、怪訝そうに眉をひそめた。だが、差し出された向日葵の茎が、マスクメンの厚い手袋越しにも伝わるほど温められているのを見て、ふいと目を逸らす。
「……まあ、せっかく摘んできてくれたんだし、枯れさせるのも可哀想だから、期待しないで持っててあげるわ」
オヒサマはぶつぶつと言いながらも、向日葵を受け取り、その大きな花びらで日差しを遮るように頭上にかざした。
「向日葵はね、空の上にもいるんだよ」
マスクメンは、青く澄み渡った夏の空を見上げた。
「宇宙から僕たちの町を見守って、雲の動きを教えてくれる、目に見えない『ひまわり』がいるんだ。だから僕も、この町のみんなが倒れないように、しっかり見守らないといけないんだ」
マスクの下の声は少しこもっていたが、そこには確かな熱がこもっていた。
キリガミネンが「ふぅ」と白い息を吐き出すと、ホームに涼しい風が吹き抜けた。向日葵の黄色い花びらが、夏の強い光を浴びて、静かに揺れた。
余白: オヒサマの部屋の窓辺には、ガラスの瓶に挿された向日葵が、夕暮れの光をいっぱいに浴びていた。
【本日の雫】
- ひまわりの日: 1977年7月14日、日本初の静止気象衛星「ひまわり1号」がアメリカのケネディ宇宙センターから宇宙開発事業団(現JAXA)の協力のもと、NASAによって打ち上げられたことに由来する記念日。