広場の石畳に、午後の光がひどく白っぽく映えていた。
「第七号と、第八号」
マスクメンは「正義のヒーロー心得十箇条」の第四条——守るべき相手を一人残さず把握せよ——を脳内で繰り返しながら、商店街の入口を行ったり来たりしていた。マスクの内側が汗ばんでいる。ハッシーが翼の付け根を押さえながら飛んできたのは今朝のことで、「鈍く重い疼き、それも二重だ」と短く告げて去っていった。
「ビラを配るべきか……扉を直接叩くべきか……いや、まず広場の——」
独り言がぐるぐる回るマスクメンの足元に、柔らかく巨大なものがぬうっと転がり込んできた。
ペーシャンだった。モチモチした体が地面に馴染むように横たわり、目を細めている。夏の嵐の前、ペーシャンはこうして地面に身を預ける。土の声を聞いているのかもしれないと、ソンチョーは以前語っていた。
「……ペーシャン、起きてくれ。台風が二つ来るんだ」
「うーん」
「ペーシャン」
「……嵐は来る」ゆったりと低い声だった。「でも、行きもする。土が、そう言ってる」
「それはそうだが、その前に一人で——」
「マスクメン」ペーシャンの目が、静かに開いた。「全部、一人で守ろうとしてる。それが一番危ない」
マスクメンはぴたりと動きを止めた。マスクの奥で、喉がひっついた。
駅のホームの方から、ひやりとした空気が流れてきた。キリガミネンがいつもの場所に立っていた。旅人たちが荷物を抱えて走り込んでくる。誰も何も言わないが、そこだけ呼吸が楽になる。蒸した夏の空気の中で、彼の周りだけが一段涼しかった。
マスクメンはゆっくり息を吐いた。マスクの下で、口の端がほどけた。誰にも見えない場所で。
ペーシャンが重そうに体を起こし、横に並んだ。
「嵐が来たら、俺がここにいる」
広場の風が一度、大きく吹き抜けた。龍神様の池の水面に、粗い波紋がいくつも走った。
余白: その夜、嵐の風が最も強まった時刻、キリガミネンのいるホームだけが不思議なほど凪いでいた。翌朝、そこに残されていたのは誰かの足跡でも荷物でもなく、石畳にうっすら刻まれた、地面から伸びる大きな手のひらの跡だった。
【本日の雫】
- ダブル台風接近:台風7号「メーカラー」(中心気圧950hPa)と台風8号「ヒーゴス」が同時に日本へ接近中。沖縄から関東にかけて大雨・強風の影響が見込まれる(2026年6月26日現在)