深夜零時を越えてもなお、広場の隅で古いテレビがぼんやりと青い光を放っていた。
スパイスが引いた延長コードが石畳を這い、緑の芝生を映す画面の前に三つの影が並んでいる。六月の夜気は湿り気を帯びて、龍神様の祠の方からカエルたちの鳴き声がリズムよく届いてくる。
「あの選手を見ろよタッチー。脚の使い方がすごい」
コポーが画面を指差した。アルゼンチンのユニフォームをまとった選手が電光石火の速さでディフェンスをかわし、右足を振り抜く。ゴールネットが揺れた瞬間、スタジアムの何万もの声がテレビの小さなスピーカーを揺らした。
「足が長いな」
タッチーが砂地に長い脚を投げ出したまま、ぼそりと言った。短い腕を膝に押しつけるようにして組む。「俺と同じくらいだ」
「同じわけないでしょ」
三人のいちばん後ろで、毛布を体に巻いたオヒサマが言った。「どうせ眠れなかっただけでしょ。帰りなさいよ、熱中症になっても知らないから」
そう言いながら、彼女の目は画面から離れなかった。
後半、その選手がまた動いた。角度のないところから低い弾道のシュートを放つ。ゴールネットが揺れる——画面の中で選手たちが走り寄って抱き合う映像が流れ、スタジアムの叫び声が今度はもっと大きくなって、蛙鳴町の深夜の広場まで届いた気がした。龍神様の池の水面がわずかに揺れたように見えた。
コポーは「っ」と詰まった声を飲み込んだ。
「……あの人たち、絶対ものすごく練習したんだよな」
声が小さかった。自分に言い聞かせるように。タッチーがちらりとコポーを見て、また画面に視線を戻した。
「ボールを池に落とした回数だけうまくなってる、っていう感じだな」
応援するでもなく、慰めるでもなく、ただそこにある言葉だった。コポーは返事をしなかった。砂地に手のひらをついて、夏の夜の土の温かさを確かめるように、じっとしていた。
オヒサマは毛布の中で空を見上げた。蛙鳴町の夜空には、試合会場の空よりずっと星が多かった。
「別に、応援なんかしてないから」
誰に言うでもなく、彼女はつぶやいた。
それでも毛布は三人分の距離を埋めるように、石段からじわりと広場まで伸びていた。
余白: 翌朝、広場に残された足跡は三対分——短い足、長い足、そして毛布のひきずり跡が、龍神様の池の縁まで続いていた。
【本日の雫】
- FIFA ワールドカップ 2026: 米・加・墨三カ国共催で開催中のW杯。アルゼンチンのメッシが1試合で3得点、フランスのムバッペが同日2得点を記録。試合が深夜の日本時間に行われるため、眠れない夜を過ごすサポーターも多い。