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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

三つの光の夕べ

梅の実が黄金色に膨らんだ頃、蛙鳴町の池の畔では宵が少しずつ遅くなっていた。

ハッシーが石造りの橋の欄干にとまったのは、龍神様の池の水面に橙の光が最後まで残っていた頃のことだった。左翼の付け根が、いつもとは違う種類で疼いている。翼の骨が「天気」を告げる時は鈍く重いが、今夜の痛みはもっと繊細な——何かを指し示すような疼きだった。

「今夜、三つの光が並ぶ」

低い声でつぶやいたが、聞いていたのは池の傍でぼうっと立っていたコポーだけだった。

「三つ、って?」

「細い月と、明るい星が二つ。なかなか揃わない並びだ」

コポーは首を伸ばして西の空を見た。まだ薄明かりが残る空の低いところに、鎌のように細い月が浮かんでいた。その傍らに、互いを引き立てるようにまたたく二つの光点。どちらが木星でどちらが金星か分からなかったが、三つがこんなに近く並んでいることだけは、はっきりと分かった。

「……きれいだな」

普段なら「すごいだろ!」と声を張るコポーが、珍しく小さく言った。

背後から草を踏む音がして、オヒサマがぶつくさ言いながら近づいてきた。

「何、また池でぼうっとしてる。ちゃんと帰りなさいよ」

「ほら、空」

「別に……期待してなかったし」

言いながらも、オヒサマの顔は自然と西を向いていた。細い月と二つの光が、黄金色に色づいた梅の葉の先にちょうど引っかかるように輝いている。池の水もそれを映して、静かに揺れていた。

しばらく、三人とも黙っていた。

ハッシーの翼の疼きは、いつの間にか消えていた。

余白: その夜、オヒサマはこっそりスケッチブックに三つの光の配置を書き留めた——「ぜんぜん期待してなかったから」と、ページの隅に小さく添えて。

【本日の雫】

  • 細い月と木星・金星の接近: 2026年6月17日の夕空で、月齢2の細い月と木星・金星が接近して並ぶ天体現象が観測できる。梅の葉の隙間にちょうど引っかかるような光景となった。
  • 梅子黄(うめのみきばむ): 七十二候のひとつ、芒種の末候。梅の実が熟して黄色く色づく頃を指す。