六月の雨が、広場の土をしとしとと黒く濡らしていた。
「ふっふっふ、今こそ俺の本領発揮だぜ」
コポーは、ミニコーが新聞から切り取ってきた白黒の写真をポケットにしまい、泥だらけの丸いボールを蹴り上げた。遠い大陸の緑の芝生で、蛙色のユニフォームが駆け回っているというそのニュースが、どこかコポーの血を沸かせていた。
「サッカーか。足の短い君には、向かないんじゃないかな」
しだれ桜の雨粒を背に受けながら、タッチーが颯爽と現れた。細く長い足を持ち上げ、ポーズを決める。「このリーチで俺が蹴れば、ゴールなど確実だ。見ていたまえ」
タッチーが助走をつけて蹴った。長い足が風を切り——ボールをはるかに通り越した。
「……風圧でコントロールが乱れただけだ」
コポーも改めてボールの前に立つ。小さな体を精一杯かがめ、石ころだらけの地面に視線を落とし、ぐ、と息をためた。蹴った瞬間、左足の親指に痺れが走った。ボールは横へ大きく逸れ、水たまりにぼちゃんと落ちた。
「……なんだよ、俺もか」
二人は顔を見合わせ、しばらく黙っていた。雨の音だけが広場を満たした。
「なあコポー。俺が浮かせて、君が合わせる。どうだ」
タッチーの声には、さっきまでの気取りがなかった。コポーは少しだけ驚いて、それからうなずいた。
タッチーの長い足がボールをふわりと持ち上げた。絶妙な高さに浮いたそれに、コポーが走りながら体ごとぶつかる——雨の中を一直線に、小さな泥のボールが飛んだ。
「フェっ、フェっ」
しだれ桜の下で、ソンチョーが目を細めて笑った。古い地図を膝の上に広げたまま、雨に濡れることも気にせずに。「遠い緑の地でも、ここの泥の上でも、ボールってのは一人じゃまっすぐ飛ばんもんじゃな」
泥が跳ね、雨が降り、コポーとタッチーの影が広場に重なった。
余白: その夜、コポーが枕元に置いた白黒の切り抜きには、ミニコーの字で「応援してるぞ」と小さく書き添えてあった。
【本日の雫】
- FIFAワールドカップ2026: 米国・カナダ・メキシコ共催の本大会はグループステージ4日目。オランダ対日本(ダラス・AT&Tスタジアム)、ドイツ対キュラソーなど熱戦が続く。