朝露が石畳を湿らせる時間帯、コポーの部屋の窓枠だけが夜明け前の橙色ではなく、モニターの青白い光で染まっていた。
「……よし。北区の制圧、完了。次は港エリアだ!」
スパイスが組み上げたジャンクパーツのモニターの前で、コポーは「カエル天下取り地図」ではなく、都会を模した仮想の街の地図を睨んでいた。新しい世界が「今日」解き放たれる、とミニコーが昨夜の新聞を持ってきた時から、コポーの目は一度も閉じていなかった。もう二十三時間になる。
「兄ちゃん」
ドアの隙間から、ミニコーが今朝の朝刊を持ち上げた。
「フランスで、二十四時間走り続けた車があったって」
「今それどころじゃない。南のアジトを——」
「途中で何度も夜が来て、雨も降って、それでも同じ道を走り続けるんだって。ゴールに向かって」
コポーの指が一瞬だけ止まった。
「……それの何がすごいんだよ」
「朝が来るたびに、まだここにいる、ってとこが」
ミニコーはそれだけ言って廊下へ消えた。
窓の外に目をやると、しだれ桜の枝に五月の朝が差し込んでいた。龍神様の池の方向から、土と水の混ざった匂いが風に運ばれてくる。画面の中の仮想の街には、そういう匂いがなかった。
コポーはゆっくりとコントローラーを置いた。「天下取り地図」を引っ張り出して、ペンで蛙鳴町に小さな旗を立てた。征服した場所ではなく、今自分が立っている場所に。
縁側に出ると、朝露で冷えた石畳が足の裏をぐっと押し返してきた。
本物の朝だった。
余白: その朝コポーが仮想の街に立てた「征服の旗」はセーブされておらず、翌日には消えていた。蛙鳴町の旗は、まだそこにある。
【本日の雫】
- Grand Theft Auto VI 発売日:世界中のゲームファンが待ち望んだシリーズ最新作が5月26日に配信開始。仮想都市の支配をめぐる大型タイトル。
- ル・マン24時間レース:フランスで毎年開催される耐久レースの最高峰。1923年の第1回大会から続く伝統の一戦。同じ道を夜通し走り続け、朝を迎えることを目的とする。