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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

帰り道の石を拾う

石橋のたもとに、コポーはしゃがんでいた。

夕暮れ時の橋の欄干は橙色に染まり、龍神様の池が水面を揺らしながらそのまま空へと溶けていくような時刻だった。コポーの手の中には、川底から拾った小さな白い石が一つ。

「なにしてんの、兄ちゃん」

ミニコーが都会の新聞を脇に挟んだまま、小走りにやってきた。

「……なんとなく」コポーは石をくるりと掌で転がした。「この石、どこから来たんだろうなって」

「川の上流じゃないの」ミニコーは当然のように言った。

「だから、上流ってどこだよ。山? それとも、もっと遠い場所から流れてきたのかもしれない。ずいぶん長い旅をして、ここに落ち着いたのかも」

ミニコーは黙って石を覗き込んだ。その丸みは、何十年もの水の流れが角を削り取った証だった。

「今日の新聞、読んだ?」ミニコーが静かに言った。「遠い昔に故郷を離れた人たちが、ようやく帰れた日らしい。54年前の今日」

コポーはうなずかなかった。ただ、石を握る指に少し力を込めた。

「帰りたかったんだろうな、ずっと」

橋を渡ってくる足音がした。ソンチョーだった。背中にはいつもの風呂敷包みを結わえ、「フェっフェっ」と笑いながら二人の間に立ち止まる。

「石を拾っておったか」

「うん」コポーは手を差し出した。「これ、どこから来たと思う?」

ソンチョーは石を受け取らず、ただ目を細めて見た。

「遠い場所から、じゃな。しかし石は今、ここにおる。それで十分だと儂は思うがのう」

橙色の池がゆっくりと藍色に変わっていく中、コポーは石を橋の欄干に一つ置いた。振り返らずに橋を渡るとき、後ろでその石がかすかにきらりと光った気がした。

余白: その夜、ミニコーは新聞の端に「帰る」という字を、まるで練習するように何度も書いた。

【本日の雫】

  • 沖縄本土復帰記念日: 1972年5月15日、27年間のアメリカ統治を経て沖縄が日本に復帰した日。2026年で54周年。
  • 国際家族デー: 国連が定める、家族の絆と多様な家族のあり方を考える日(毎年5月15日)。