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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

かがり火の魚

夕暮れどきの池は、空の橙が水面に滲んで、じわりと赤みを帯びていた。

「ミニコー、それ、何が書いてあるの?」

コポーが草の上に転がりながら問うと、弟はていねいに新聞を折り直した。「長良川の鵜飼い、今夜から始まるって。篝火を焚いて、訓練した鵜に川の鮎を捕らせる漁法。千三百年続いてるんだよ」

「へえ……鵜って、あの鳥か」

「うん。でも、鳥が捕まえた鮎は全部漁師さんのもの。首に輪をはめてあるから、飲み込めないの」

コポーは草の上で体を起こした。「それ、かわいそうじゃないか?」

ミニコーは答えなかった。代わりに池の向こう岸へ目をやった。

岩の上でハッシーが翼を休めていた。夕日の中で、大きな影が水面に伸びている。羽の色が橙色に染まって、コポーの知っているハッシーとは少し違う生き物に見えた。

コポーが立ち上がって岸辺へ近づいていくと、ハッシーは振り向きもせずに言った。

「今夜、都会の川で篝火が灯る」

「知ってる。ミニコーが教えてくれた」コポーは草を踏んで横に並んだ。「ハッシーって……鵜みたいだと思うか、自分のこと」

しばらく、池の水音だけが続いた。

「違う、と言えたらよかったが」

翼の骨が、かすかに鳴った。天気が変わるサインだと、コポーは知っている。

「首に輪をはめられたわけじゃない。でも、捕まえられるものを捕まえない、と決めた。最初は……誰かに決めてもらったんだ。今は、自分で続けている」

コポーは膝を抱えた。「苦しくないか?」

「苦しいときもある」ハッシーはゆっくりと言った。「でも、方向が要るんだ。暗い川の中を泳いでいくような時、篝火みたいなものが。何かが灯っていれば、どっちへ向かえばいいか分かる」

その言葉の手触りを、コポーはうまく掴めなかった。でも、池が橙から紺へと変わっていく時間に、ハッシーの横で黙って座っていることが、なんとなく正しいことのように思えた。

葦が風に揺れた。遠くでケロミの鼻歌が聞こえた。一羽のサギが水面すれすれを横切って、夕暮れの中へ消えた。

余白: その夜コポーは、暗い水の中を泳ぐ夢を見た。遠くに橙の火が揺れていて、コポーはひたすらそちらへ向かった。岸に上がった時、手の中に何かを握っていたが、目が覚める前に放してしまった。


【本日の雫】

  • 長良川鵜飼開き:岐阜県・長良川で5月11日に始まる伝統漁法。1300年以上の歴史を持ち、訓練された鵜が篝火の光で驚いた鮎を捕まえる。首の輪で飲み込めない鵜が捕まえた鮎を漁師が受け取る、人と鳥の共働の儀礼。10月15日まで続く。
  • ご当地キャラの日:「ご(5)・当(10)・地(1)」の語呂合わせから制定。地域を元気にするご当地キャラクターの連携を深め、全国へ発信する日。