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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

粉のゆくえ

連休が明けた朝の広場は、妙な静けさをまとっていた。

コポーは石段に腰を落とし、地面の白い粉を指でなぞった。昨夜の屋台が打ち粉をこぼしていったのか、石畳に細い白い線が残っている。踏めば消える。踏まなければ、また風が来て飛ばす。

「連休、何やってた」

背後から声がした。振り向くと、ソンチョーが桜餅の包みを提げてゆっくりと近づいてきた。

「……何もしてません」

「ほう」ソンチョーは隣に腰を下ろした。「それはそれで贅沢じゃ」

「贅沢じゃないですよ。ただ——何にもならなかった気がして」

石段の粉を、コポーはまた指でなぞった。白い線を引いて、また消した。

「それ、なんだと思う」

「打ち粉……ですかね」

「小麦の粉じゃな。こいつは何になれると思う」

「パンとか。お好み焼きとか」

「そうじゃ」ソンチョーは杖の先で粉をちょんとつついた。「水を入れて混ぜて、熱を当てれば何にでもなる。だがな——」

池の方から風が来て、石畳の白い粉が細く舞い上がり、消えた。

「粉のままでいる時間も、ちゃんと粉じゃ。何にもなっていないと恥じることはない。何にでもなれる状態でいる、というのも、ひとつの完成じゃ」

コポーは答えなかった。じわりと額に汗がにじむほど、連休明けの朝の空気はもう熱を帯びていた。

「今日から日が長うなる。暑くなるぞ」とソンチョーが続けた。

「知ってます」

「では、行ってこい」

コポーは立ち上がった。どこへ向かうかは、まだ決まっていなかった。それでも足は動いた。

余白: その夕方、コポーが広場を通ると、石畳の白い粉はきれいに消えていた。代わりに、コナモ屋の軒先から漂う焼ける匂いが、路地全体をやわらかく包んでいた。

【本日の雫】

  • コナモンの日(5月7日):「コ(5)ナ(7)モン」の語呂合わせで、日本コナモン協会が制定。お好み焼き・たこ焼き・うどんなど小麦粉を主原料とした料理の総称。
  • 連休明け初日:2026年GWは5月6日(水・振替休日)で終了。7日(木)は全国的に晴れ、今年最多の夏日地点が予想される、夏の始まりのような一日。