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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

揚げたての誓い

石橋の向こう、コロモ屋の軒先から揚げ油の香りが漂ってきた。

コポーは堤防の石に腰かけたまま、その方向を一点集中で眺めていた。春の連休最後の夕方、龍神様の湖の方からのんびりした風が来て、しだれ桜の新芽をゆらした。油の香りが波のように押し寄せて、鼻のあたりを揺さぶる。

「コポー。さっきから三十分そっちしか見てない」

荷を担いだモッチーが通りがかりに立ち止まって言った。

「……戦略的に考えてた」

「コロッケの値段を頭の中で計算するのを戦略と呼ぶのか」

正確だった。コポーは言い返せなかった。

「別に、痩せたいわけじゃないし」草をむしりながら言った。「でも毎日食べてたら、なんか……ちゃんとしてないやつみたいで」

「誰が見てる」

「……誰も」

「だったら行くぞ」

モッチーは荷を下ろさずに、そのまま橋の方へ歩き出した。理由も条件も一切なかった。「行くぞ」の三文字だけで、コポーの足は立ち上がっていた。

コロモ屋の前に並んで、揚げたてを二個ずつ受け取った。外の揚げ音がまだ耳に残っている内に、コポーはひとかじりした。熱くて、やわらかくて、じゃがいもの甘さが舌の上にしばらく広がった。

「うまい」

「うまいだろ」

夕暮れ色の石橋の上に、揚げ油の匂いがうっすら残った。コポーは残り半分のコロッケを持ったまま、少しだけ背が伸びた気がした。

余白: その夜、コポーは「ノーダイエット宣言」と書いたメモを自室の壁に貼った。翌朝起きたら床に落ちていた。なぜ剥がれたのか、本人には心当たりがある。

【本日の雫】

  • コロッケの日(5月6日):ニチレイが制定。「こ(5)ろ(6)っけ」の語呂合わせ。揚げたての日常的な幸福を称える記念日。
  • 国際ノーダイエットデー(5月6日):ボディ・ポジティブを広め、ダイエット文化に疑問を投げかける国際的な記念日。「今日は、自分のままでいい」という宣言の日。
  • 2026年ゴールデンウィーク最終日:こどもの日の振替休日。連休の終わりと日常の始まりが交わる夕方。