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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

芽のそばの午前

五月の朝霧が龍神様の湖の方から流れてくる頃、コポーは広場を二周してから行き先をなくして、池の畔の細い道に踏み込んだ。

しゃがんでいる影がある。

「モッチー?」

モッチーは振り向かず、腰の高さほどの小さな若木の前で、ただじっと動かなかった。根元の土が少し盛り上がっていて、まだ柔らかい。

「お前もどこか行かないのか、ゴールデンウィークだぞ」

「……見てみろ」

コポーが隣にかがむと、若木の枝から二枚、三枚、小さな葉が出ていた。朝の光に透けるような薄い緑で、風に揺れるたびにほんのわずかだけ震えていた。

「二日前は枝だけだった」とモッチーが言った。「八十八夜の朝に芽が出て、昨日は黄色かった。今日は緑だ」

コポーは葉を見た。確かに、緑だった。薄くて、まだどこか頼りなくて、でも確かに緑だった。

「これ、秋に植えたやつか」

モッチーはうなずいた。大きな手を膝に乗せたまま、葉が揺れるのをじっと見ている。どこにも行く気がない。行く必要がない、という顔をしていた。

コポーは返す言葉が思い浮かばなかった。ただ隣にしゃがんで、薄い葉が朝風にそっと揺れるのを、しばらく一緒に見ていた。

余白: 帰り際、コポーは誰にも言わず若木の根元の石をひとつ、ちょっとだけ日当たりのいい方に動かした。

【本日の雫】

  • みどりの日(5月4日):自然に親しみ、自然の恩恵に感謝する国民の祝日。ゴールデンウィーク中日にあたり、新緑が最も深みを増す時期に設けられた。