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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

十年後の木陰

蛙鳴町奇譚:十年後の木陰
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カエル山へ続く坂道に、土の匂いが濃かった。

コポーはモッチーの背中を見つけたとき、足を止めた。両腕に抱えた苗木のせいで、どっしりした体がいつもより大きく見えた。根株から垂れた細い根が、春の光の中で静かに揺れている。

「何を植えるんだ」

「龍神様の社の横に、枯れ木が一本あって。ソンチョーに頼まれた」

コポーはモッチーの後ろについて歩き始めた。理由はうまく言えなかった。ただ、何かを抱えた背中を一人にしておく気にはなれなかった。

社の脇に、古い切り株があった。木が抜かれたあとの、丸い空白。

「十年で木陰になるかな」とモッチーが穴を掘りながら言った。

「十年かよ」コポーは思わず繰り返した。「そんな先の話か」

「そんな先の話だよ」

モッチーは笑わず、ただそう言って、太い腕で黙々と土をほぐした。

しだれ桜の根元のベンチから、ソンチョーの声が届いた。

「今朝、遠い国で土ごと流されたという話が届いた。木を植える手より、水に飲まれる命の方が多い場所がある」

コポーは黙って苗木の根元を押さえた。土が重い。雨を含んだ、温かい重さだった。

「根を張ることと、どこかへ向かうことは……」

「……同じことか」

コポーが先を言うと、ソンチョーは「フェっフェっ」と笑った。

「言い切るな。お前はまだ、どちらも途中じゃ」

苗木が立った。細い幹が春の風に揺れた。根はまだ、見えない。

余白: 帰り道、コポーは掌の土汚れを、洗い落とさないまま夕飯を食べた。


【本日の雫】

  • ナショナル・アーバーデー(全米植樹の日): 4月の第4金曜日。1872年にネブラスカ州で始まった記念日。アメリカ各地で木を植える活動が行われる。
  • アフガニスタン洪水: 4月24日時点で洪水による死者が178名、負傷者236名に達したと報告された。