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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

最初の灯り

スパイスの工房に、手作りの電球が一個下がっていた。

「今日、点けてみる」

コポーとミニコーが見守る中、スパイスがスイッチを入れた。

フィラメントがゆっくり赤くなって、橙色の光が工房を満たした。

「……わあ」

ミニコーが息をのんだ。

コポーがしばらくその光を見ていた。

「最初に電気を点けた人って……怖くなかったのかな」

スパイスが答えた。

「怖かったから、点けたんじゃないか」

「え?」

「暗さを知っているから、光を作ろうとする。怖くない人間は、わざわざ灯りを作らない」

コポーが光を見た。橙色の揺らぎが、三匹の影を壁に大きく映した。

「……俺も、怖いから頑張ってるのかな」

「そうじゃないか」

工房の外で、夜の蛙鳴町が静かに呼吸していた。

余白: スパイスはその電球を、工房の一番見える場所に飾った。消していない。


【本日の雫】

  • 電気記念日(3月25日): 1878年3月25日、東京・銀座木挽町で日本初のアーク灯が点灯されたことを記念する日。