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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

見えない咳の音

スパイスが聴診器型のガジェットを持って、広場を歩いていた。

「何してるの?」モッチーが声をかけた。

「町の『見えない小さな声』を聴いている」

モッチーが首をかしげた。

「今日は世界結核デーだ。見えない菌が、百年前の人間を何千万人も奪った。今もまだ、世界のどこかで続いている」

「今も?」

「ああ。ただ、薬がある今は——元気な振りをしている人の声の方が、診断を難しくすることもある」

モッチーが少し考えて言った。

「オレも時々、元気な振りをすることある」

スパイスが振り向いた。

「どんな時に?」

「荷物が重すぎる時」

スパイスが聴診器をそっとモッチーの胸に当てた。「……今は?」

「今は普通」とモッチーが言った。「話したら、少し軽くなった」

余白: スパイスは「見えない声の記録」に、その日だけ日付と「回復」と書いた。


【本日の雫】

  • 世界結核デー(3月24日): 1882年3月24日、ロベルト・コッホが結核菌を発見したことにちなむ国際デー。結核は今も世界で最も死者の多い感染症のひとつ。