世界水の日に、スパイスが龍神様の湖の水質データを読み上げた。
「透明度、pH、溶存酸素量——すべて正常範囲内。この町の水は、今も清潔だ」
ソンチョーが湖面を見ながら言った。
「水は記憶を持つ、という。昔の人はそう信じていた」
「科学的根拠はない」
「そうかもしれん。しかしこの湖は、龍神様が怒った年も、争いが続いた年も、同じ場所で同じように光を返してきた」
スパイスが端末を閉じた。データより古いものが、そこにあった。
「……測れないものがある」
「そうじゃな。でもスパイス、測ろうとしてくれることが——水にとっては、一番の礼儀じゃないかのう」
春の光が湖に落ちて、揺れた。スパイスがもう一度端末を開いて、今度は「記録日:春、清潔」とだけ書いた。
余白: スパイスのデータログに「感情的余白」という名のフォルダが、その日初めて作られた。
【本日の雫】
- 世界水の日(3月22日): 国連が制定した国際デー。世界の水資源について考え、安全な飲料水へのアクセスの重要性を広める日。