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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

誰も聴いていない歌

誰もいないと思っていた。

ケロミが広場のしだれ桜の下で、発声練習の次に好きな歌を歌っていた。本番のためではなく、今日この瞬間のためだけに歌う時間。少し声が震えていたのは、花粉のせいではなかった。

コポーは物陰で動けなかった。

偶然通りかかっただけのつもりが、足が止まった。一小節聴いたら二小節、二小節聴いたら三小節。ケロミの声が桜の枝を揺らし、春の空気に溶けていった。

最高に上手かった。

「……(絶対言えない)」

コポーが決意した。

ケロミが歌い終わって振り返ったとき、コポーはもう走って逃げていた。

余白: コポーの心臓の音は、ケロミの歌声の三倍の速さで刻んでいた。


【本日の雫】

  • ミュージックの日(3月19日): 3(ミュー)19(ジック)の語呂合わせから制定された、音楽を称える記念日。