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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

星の欠片と春の墓前

スパイスが端末を見つめたまま動かなかった。

「……生体分子が確認された」

遠い宇宙の小惑星から持ち帰ったサンプルの中に、生命を作る分子が含まれていた。都会の研究者たちが、震える声で発表していた。

「生命は、星の欠片から生まれたかもしれない」

しばらくして、スパイスは静かに端末を閉じた。今日は春彼岸の入り。ソンチョーが一人、龍神様の湖の奥にある小さな石碑へ向かおうとしていた。

スパイスは何も言わず、その後ろについて歩いた。

二匹は石碑の前でしばらく立っていた。

「遠い星と、この土の下、同じ材料でできているとしたら」

ソンチョーが静かに言った。

「……そうかもしれない」

春彼岸の風が、湖面を渡っていった。

余白: スパイスのメモには「生体分子の確認された座標」と「石碑の場所」が、同じページに書かれていた。


【本日の雫】

  • はやぶさ2サンプルから生体分子確認(2026年3月17日): JAXAの小惑星探査機はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウのサンプルから、生命の素となる生体分子が確認された。
  • 春彼岸入り(3月17日): 春分の日を中日とする春の彼岸が始まる日。先祖の墓参りをする風習がある。