三月十六日の朝、モッチーは夜明けから台所で団子をこねていた。
ひとつ、ふたつ……十六個。数えながら、丁寧に、均等な大きさに丸めた。
「龍神様への春の供え物だ」
広場のベンチで眺めていたソンチョーが、「ひとつ食べてもよいか」と聞いた。
「供え物だぞ」
「龍神様が召し上がった後の分じゃ。もう十七個目は必要あるまい」
モッチーが眉をひそめた。「食べてないだろ」
「見えないところで食べておるかもしれぬ。フェっフェっ」
ソンチョーが一個を口に入れた。しばらく噛んで、目を細めた。
「……美味い。これなら龍神様もお喜びになる」
モッチーが照れて、団子の列を整え直した。春の朝の光が、十六個の団子の上に静かに降りていた。
余白: 供え物を置いた後、龍神様の池の水面が一度だけ、静かに揺れた。
【本日の雫】
- 十六団子の日(3月16日): 農作業の始まりを告げる日として、山の神様に十六個の団子を供える風習がある。