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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

ミモザの朝に

三月の朝、ビピクがしだれ桜の下に立っていた。

姿勢は完璧だった。角度も、表情も、指先の形も。でも今日だけは、誰も見ていない場所でそれを維持していた。

「疲れた」

小さな声で言った。誰にも聞こえないくらいの音で。

「聴こえてるよ」

ケロミが歩いてきて、隣に腰を下ろした。

「今日は完璧じゃなくていい日だよ」

「でも完璧でないと……」

「誰に?」

ビピクは答えられなかった。

ソンチョーが、どこからともなくミモザの枝を一本持ってきた。黄色い小さな花が、朝の光の中でぽこぽこと揺れていた。

「完璧な花より、ぼうぼう咲く花の方が、蜜は甘いものじゃよ。フェっフェっ」

ケロミが「一緒に歌わない?」と聞いた。ビピクが初めて、少しだけ不格好に笑った。

余白: その日のビピクのポーズには、一か所だけ直さなかった崩れがあった。


【本日の雫】

  • 国際女性デー(3月8日): 女性の社会的・経済的・文化的な平等と権利を訴える国際的な記念日。イタリアではミモザの花を贈る習慣がある。