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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

土の下の声

啓蟄の朝、龍神様の池のほとりの土がもこもこと動いた。

「……春、だ」

ペーシャンが、大きな体をゆっくりと地面から持ち上げた。モチモチした背中に土が張りつき、枯れ葉のかけらがいくつか乗っかっていた。

「起きたっ! ペーシャン起きた!」

コポーが飛び跳ねて出迎えた。

「冬の間、何してたの?」

「……寝てた」

「夢は?」

ペーシャンがしばらく考えた。

「……春になる夢」

ソンチョーがベンチで笑った。「フェっフェっ。土の中で一番確かな予言をしておったのは、こやつじゃったな」

コポーは少し悔しそうに「俺も土に潜れば未来が見えるのかな」と言った。しかしすぐに「でも怖いな」と付け加えた。

池の水が朝の光を受け、ゆっくりとほどけていくように揺れていた。

余白: ペーシャンの背中の土が落ちると、小さな緑の芽が一本だけついてきた。


【本日の雫】

  • 啓蟄(けいちつ): 二十四節気のひとつ。土の中で冬眠していた虫たちが地上に姿を現し始める頃とされる。2026年の啓蟄は3月5日。