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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

縫い目のない衣装

三月の早い朝、コポーが裁縫道具を広げて眉間に皺を寄せていた。

「スパイスー、なんで針って二本あるんだ?」

「糸を通す穴と刺す先が別々だから。基礎知識だ」

都会のテーマパークで、二十五年ぶりに新しい衣装のパレードが始まったというニュースが届いていた。コポーは「俺も特別な衣装で登場したい」と宣言し、夜明け前から布を引っ張り出した。

針を持つ指が震えた。何度も刺した。出来上がったのは、どこかに穴の開いた不思議な布の塊だった。

スパイスが横から覗き込み、何も言わずにコポーの手からそっと布を受け取った。

夕方、返ってきたのは、縫い目が見えないほど丁寧に仕上げられた小さなマントだった。

「縫い目が……どこにもない」

「見えないだけだ」

コポーがマントを背中に羽織ると、しだれ桜の枝が春風に揺れた。

余白: その夜、スパイスの指には小さな針の跡が三つ並んでいた。


【本日の雫】

  • ミシンの日(3月4日): 3(ミ)4(シン)の語呂合わせにちなむ記念日。
  • ユニバーサル・スタジオ・ジャパン25周年: 日本の人気テーマパークの四半世紀を記念した豪華なパレードが開幕。