蛙鳴町について # 町外れの古い踏切と、しだれ桜が川面に枝を伸ばす風景。 蛙鳴町(あめいちょう)は、どこにでもありそうで、どこにもない小さな町です。 日々の出来事が、ここでは少しだけ奇妙な色に染まります。
蛙鳴町の龍神様の池は、蝉時雨に包まれながらも、水面だけがひんやりと涼を保っていた。今日は年に一度の「みんな泳ぎの日」——子どもたちが橋の下の浅瀬で水しぶきを上げる、夏いちばんの賑わいの日だ。
橋の欄干を撫でる夕風には、線香と藁の焦げる匂いがかすかに混じっていた。石造りの橋のたもとに置かれた素焼きの皿の上で、コポーは震える左手にマッチを握りしめている。
夏の陽射しが照りつける昼下がり、コポーは池のほとりでせっせと笹の葉を編んでいた。
「これで……僕だけの船が完成するぞ!」
出来上がったのは、掌に収まるほどの小さな笹舟だった。帆の代わりに、ケロミの衣装の端切れをそっと立ててある。
朝からじりじりと照りつける日差しが、カエル山の坂道を白く炙っていた。石段の隙間からせり出した夏草の匂いと、遠くの蝉時雨。
「……くっ、ここは俺の担当区域だ。逃げるわけにはいかん」
朝靄の残る駅前広場に、ソンチョーの黒いシルクハットが朝日を跳ね返していた。いつものベンチで桜餅を頬張るその姿に、コポーが息を弾ませて駆け寄ってくる。