空がいつもより低かった。
ハッシーが木陰から顔を出した時、龍神様の湖は完全に凪いでいた。風のない日の水面は、何かを待っているような静けさを持つ。右の翼の骨が昨日からじくじくと痛んでいた。これは間違いなく来る、とハッシーは思った。
梅雨が本気を出していた。
昨夜から降り続ける雨は朝になっても勢いを増すばかりで、石畳は薄い川のようになり、しだれ桜の枝先は重さに負けて地面を叩き続けていた。そんな中で、コポーは傘もなくオヒサマの家の前に立っていた。
梅雨入りの前夜とは、いつもそのような夜であった。
龍神様の湖の水面が、いつになく黒々と光っていた。コポーが夕飯の後に石橋の欄干に肘をつきながら、それを見ていた。普段は月明かりを反射して白みがかる水が、今夜だけはまるで濡れた墨のように、光をことごとく飲み込んでいる。
蛙鳴町奇譚:はじめの一音 # 梅雨の空は、朝から鉛色に押しつぶされていた。池の面に細かい波紋が広がるのは、遠い空から届いた台風の余波か、それとも龍神様が深い眠りから寝返りをうったのかと、広場のベンチに腰かけたコポーは、ぼんやりと考えた。
蛙鳴町奇譚:水のたより # 梅雨の前夜のような空が、龍神様の湖の上に低く垂れ込めていた。水面は灰青く、凪いでいる。
六月の最初の朝、蛙鳴町の広場には重たい雲が腹を引きずるようにして低くたれこめていた。
コポーは昨晩拾い集めた枯れ枝を二本、広場のはずれに立ててゴールを作り、そこめがけてひたすらボールを蹴り続けていた。足の甲に感触が残るたびに、遠い北米の青々とした芝生を思い浮かべた——あと十日で、世界中の誰かがあの場所に立つ。
「べちゃ……」
五月の朝、池の端でコポーは折りかけた紙を一枚、静かに膝に落とした。空気が重い。梅雨の入り口を嗅ぎつけたような湿った南の風が龍神様の池を揺らし、岸の葦がやわらかくしなっている。