空がいつもより低かった。
ハッシーが木陰から顔を出した時、龍神様の湖は完全に凪いでいた。風のない日の水面は、何かを待っているような静けさを持つ。右の翼の骨が昨日からじくじくと痛んでいた。これは間違いなく来る、とハッシーは思った。
蛙鳴町奇譚:はじめの一音 # 梅雨の空は、朝から鉛色に押しつぶされていた。池の面に細かい波紋が広がるのは、遠い空から届いた台風の余波か、それとも龍神様が深い眠りから寝返りをうったのかと、広場のベンチに腰かけたコポーは、ぼんやりと考えた。
六月の最初の朝、蛙鳴町の広場には重たい雲が腹を引きずるようにして低くたれこめていた。
コポーは昨晩拾い集めた枯れ枝を二本、広場のはずれに立ててゴールを作り、そこめがけてひたすらボールを蹴り続けていた。足の甲に感触が残るたびに、遠い北米の青々とした芝生を思い浮かべた——あと十日で、世界中の誰かがあの場所に立つ。
南の空気が、朝から少しだけ違う匂いをしていた。
池の水面がざわめいている。風はないのに、龍神様の祠のしめ縄が揺れていた。コポーは縁石に腰かけて、その揺れを眺めながら腕を組んだ。カッコいいポーズをとるつもりだったが、なんとなくそういう気分になれなかった。