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  1. 蛙鳴町(あめいちょう)奇譚/

水を数える朝

夜明けの靄が龍神様の池を包み込み、水面から立ちのぼる匂いがかすかに苔と土を思わせた。

「見ろよミニコー、これぞ僕特製【虹色水鉄砲】だ! 太陽を反射させて七色の水柱を上げれば、町の女の子たちもきっと……」

コポーは池の水を吸い上げた自作の水鉄砲を掲げ、得意げに胸を張った。だが引き金を引いた瞬間、噴き出したのは虹色どころか泥まみれの濁った水しぶきだった。

「兄さん、それたぶんフィルターの目が粗すぎるんだよ」

新聞を片手に立つミニコーが、短い手で顔の泥を拭ってやりながら苦笑した。

工房から出てきたスパイスが、腰から下げた小さな装置を池にそっと浸すと、液晶に細かな数字が浮かび上がった。

「透明度、水温……ここ数日でわずかに濁りが増えてる。誰か、土いじりでもしたか」

眉根を寄せたまま、スパイスは装置のケーブルを丁寧に巻き直す。効率一辺倒に見えて、その手つきはひどく優しい。

「……僕のせいかな」

コポーが泥だらけの水鉄砲を見下ろし、しゅんと肩を落とした。

「いや、たぶん昨日の雨だよ。でも、その水鉄砲もついでに直しとこうか」

スパイスは笑って、水鉄砲の中の網を目の細かいものに取り替えてくれた。もう一度引き金を引くと、今度こそ光を弾いた水の粒が、幾筋もの淡い虹を描いて池の上に散った。

「うわ、本当に虹だ……!」

コポーが声を上げるより先に、ミニコーは静かに池の水面を見つめていた。

「透明な水って、案外何も言わないんだね。でも、澄んでるかどうかは、みんなちゃんと見てる」

池の水はどこまでも澄んで、龍神様の祠の輪郭をくっきりと映していた。

余白: その夜、スパイスは池の水質データをそっと記録の蔵の帳面に書き足していた。誰にも気づかれないまま。


【本日の雫】

  • 水の日: 8月1日は、水資源の大切さについて理解と関心を深めることを目的に1977年の閣議了解で制定された記念日。8月1日から7日までは「水の週間」とされている。